海外の評価も高く、現在大ヒット上映中の映画『バーバラと心の巨人』のアンダース・ウォルター監督にインタビュー取材を行い、長編初監督の苦悩から、この作品に対する想い、監督自身の話などを伺いました。
|グラフィックノベルの映像化
ー今回の作品はグラフィックノベルが原作となっています。映画化する際どんなことを意識されたでしょうか?
一番大事にした部分は「ヒューマンドラマ」ということ。作品中に巨人が出てくるので、ビジュアル的にもエンタメ色が強い印象を受けるのですが、この映画、原作となっているグラフィックノベルの核は、主人公バーバラの成長、そして彼女の周りとの人間関係です。僕はこの、しっかりと描かれたヒューマンドラマに恋をしてしまったので、キャラクター、人間関係は特に気をつけて描くことを心がけました。そのため、脚本はできるだけ深く掘り下げていき、真実味を感じられるように作り込みを重ねました。
|初の長編映画で苦労した点
ーあなたにとって、本作品は初の長編作品です。短編作品と比べて難しかった点はどんなことがあったでしょうか?
そうですね、終わってみて考えると、難しかった点もあるし、短編作品と変わらなかった点もありました。
まず、難しかった点で考えると、言葉の壁かな(笑)。僕は母国語がデンマーク語で、今回の作品はアメリカのスタッフも多かったから、共通言語は英語なのですが、細かいニュアンスを英語でスタッフ、キャストに伝えるのは苦労しました。
そして短編映画と最も違うのは規模感。短編の時は意思決定者は僕とプロデューサーの2人くらいだけど、今回はプロデューサーだけでも6~7人、それに加えてエグゼクティブプロデューサーが8人ぐらいいました。撮影に関しては予算も関係してくるので、様々な意見が飛び交うし、その場で議論も起きる。その中で僕は監督として明確なビジョン、そして緩慢にはなってはいけないけど、反対意見を持つ人に対して説得できる強さを持たなくてはいけなかった。こういった能力を求められたのは短編作品では無かったことでした。
その一方で、現場に入って撮影が始まり、キャストやプロダクションデザイナーと向き合うと、この特異な環境を忘れることができ、純粋な監督として笑って、泣いて、怒って、そして良い映像が撮れればみんなで喜ぶ。これは短編映画の撮影風景と全く同じでした。
ー今回の作品を監督として引き受けた経緯、そして監督として採用された時の気持ちを教えてください
プロデューサーのクリス・コロンバスが、この作品の監督を探しているということを耳にしたので、エージェントを通して僕が創った短編映画『HELIUM(原題)』を見てもらったのがきっかけだったんだ。ただ、その後明確に「君に監督をお願いする」というような、言葉や瞬間は無かったんだけど、3~4カ月の間、クリスにアイデアのメモを渡したり、ミーティングを重た時期があったんだ。長い期間会話は続けるけど監督としての採用がなかなか出なかったので、デンマークで、僕がイメージする『バーバラと心の巨人』のトレーラー(予告編)を創って、クリスに観せたんだ。そうしたらクリスは驚き喜んでくれて、正式に監督としての採用となったんだ。初の長編映画、しかも言語は英語。これは自身にとっても大きなかけではあったけど、それ以上にクリスが僕を信じてくれたことがとても嬉しかったんだ。
|プロデューサー クリス・コロンバスとの仕事
ークリス・コロンバスとの仕事はどのようなものだったのでしょうか?
彼は『ホーム・アローンシリーズ』や『ハリー・ポッターシリーズ』を監督していたので、子供のキャスティング経験がとても豊富でした。キャスティングについては多くの助言を貰いました。
そして、彼は監督が、自分で決断をして自身をつけることがいかに大切かをわかっているので、プロデューサーという立場として、撮影のたびにアイディアを出してくれるんだけど、最終決断は常に僕がするようにと言われ続けたんだ。色々と指導をしてくれながらも、上手く距離を置きながら、自分自身のスペースをきちんと作ってくれました。自分の心の声を見つけ、そして信じることによって僕という監督の個性が出て良質な作品が出来上がっていく、それをしっかりとサポートしてくれた印象を持っています。
|バーバラを支える女性たち
ーそれでは作品の内容についてお伺いします。バーバラを支える女性たちから母性のようなぬくもりを感じたのですが、主要人物すべて女性ということもあり、そのあたりは何か考えがあったのでしょうか?
ある人から「女性の権利を主張している時代に、この作品が完成したのは完璧なタイミングだったね」とは言われたのですが、このプロジェクトは7~8年前から動いていますし、このタイミングで完成し、公開されたのは偶然です。ただ、3年前に脚本を初めて読んだ時に、女性がメインキャラクターの作品ということで惹かれたというのは正直なところです。今まで僕が創った短編は、男性がメインの作品が多かったので、今回のように5人の女性それぞれを理解しながら掘り下げていくというのはとても楽しい行為でした。バーバラの好きなところは強い女性で個性的な性格なんだけど、ただ自分の状況から抜け出すために、男性の力を借りずに、周りの女性の力をかりて抜け出すところが面白い。私の母も20年間一人で暮らして、姉もいる。彼女たちの生活を見ていると、女性同士はすごい助け合って生きている。強くお互いを助け合っていてそういうところに強く共感したのも今回の作品に惹かれた大きな要因だと思っています。
|バーバラの要素は僕の中にも多くある
ーバーバラのようなティーンエイジャーの頃の監督はどのような少年だったのでしょうか?
小さい頃から絵を描くのが好きで、授業中も放課後も家に帰ってもひたすら描いていました。普通の10代の男の子のように、女の子も好きだったけど、ただただ自分の世界に入って、ストーリーを作り上げる事に夢中でした。それ以外でも、日本の「アキラ」やヨーロッパのコミック本も読み漁っていて影響を受けました。バーバラの要素は僕の中にも多くあると感じています。
|物語で一番大事にしたこと
ー巨人の秘密が明らかになっていく過程で心がけたことはありますか?
何が起きるのか、何が現実なのかが最後まで分からないという作品の中で、巨人の秘密をいつ明かすかは難しい事でした。一番最初にやったのは、原作で描かれていた「バーバラが妖精と話すシーンなど」を削除したことです。こういったシーンは“これはファンタジーの世界だよ”っていうのをほのめかす要素になるので、観客はそのシーンがあることによって、「これはファンタジー作品なんだ」と思ってしまう。僕は、観客が巨人が出てきても、それがファンタジーなのか、現実なのかを考えながらストーリーを最後まで追って欲しいと思っているし、最後まで分からないという部分が一番大事な要素なので、そこをできるだけ守るために自分が思い描いているストーリーラインを邪魔するファンタジーの要素は取り除くように細心の注意を払いました。
|インタビューを終えて
『バーバラと心の巨人』は、監督も話していた通り、巨人という要素はあるものの、ストーリーの見所は主人公バーバラの心の成長です。自分の世界を大事にするバーバラ、そして成長という要素は、監督自身にも繋がっているような印象を受けました。もしかしたら、バーバラを監督自身に重ねて作品を創ったからこそ、ここまで暖かみのある素晴らしい作品になったのかもしれません。ヒューマンドラマが好きな方には是非オススメしたい作品です。
日本アニメを代表する作品の一つ「アキラ」にも影響を受けたというアンダース・ウォルター監督は、これからも良質な作品を手がけていくはずです。LifTe編集部は、引き続き監督の活躍をチェックしていこうと思っています。
|アンダース・ウォルター監督 プロフィール
アンダース・ウォルター/監督
1978年デンマーク・オーフス生まれ。映画監督、脚本家。大手広告会社DDB Needhamでイラストレーターを始め、ニューヨークの美術学校スクール・オブ・ビジュアルアーツに入学。短編映画『9 METER(原題)』(12)が第85回アカデミー賞短編賞にノミネートされ、続く『HELIUM(原題)』(13)は第86回アカデミー賞短編賞を受賞した。The Dance Palaceスタジオの創立者でもある。これまで25作品以上の様々なデンマークアーティストのミュジックビデオを監督している。本作が長編映画デビュー作。
映画を紹介した記事はこちらから
映画『バーバラと心の巨人』大ヒット公開中!
© I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017
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