ノルウェー発の新感覚ホラー『アンデッド/愛しき者の不在』は、恐怖だけでなく深い余韻を伴う"静寂のホラー"。
圧倒的な映像美と緻密な音響効果が織りなす不穏な世界観の中、愛と喪失という普遍的なテーマに真正面から向き合います。
主演は『わたしは最悪。』で大注目を浴びたレナーテ・レインスヴェ。
本作は、北欧ホラーの傑作『モールス』の原作者による脚本で、静けさの中に潜む不安と予測不能な展開が観る者をじわじわと追い詰めます。
一度見たら、その独特な雰囲気と深い余韻がいつまでも頭から離れない作品です。
ストーリー
現代のオスロ。息子を亡くしたばかりのアナ(レナーテ・レインスヴェ)とその父マーラー(ビヨーン・スンクェスト)は悲しみに暮れていた。
墓地で微かな音を聞いたマーラーは墓を掘り起こし、埋められていた孫の身体を家に連れて帰る。
息子の元へ行こうとしていたアナは生気を取り戻し、人気のない山荘でひっそりと暮らしはじめる。
しかし還ってきた最愛の息子は、瞬きや呼吸はするものの、一言も発しないのだった。
そんなとき、招かれざる訪問者が山荘に現れる。同じ頃、別の家族にも異変が起きていた。
反抗期の娘と素直な弟のいる一般家庭の母親が交通事故に遭い、病院で蘇生する。
一方、葬儀直後に家に戻ってきたパートナーに喜ぶ老婦人もいた。
しかしどの帰還者も生命が宿っているとは言い難い。彼らは何者で、一体何を望んでいるのだろうか...。
不穏な静けさを生む独特の視点と自然の美
映画の舞台となるノルウェーの自然は、美しさと不穏さが絶妙に共存しています。ただし、この作品の映像表現が特別なのは、自然美を単に観客に見せるだけでなく、あえて画面の中心から外した撮影手法を随所に取り入れている点です。
たとえば、人物や物語の焦点がフレームの端に配置されたり、背景が不自然に広く映し出されたりすることで、観客は心の中に不安や違和感を覚える仕掛けが施されています。さらに、人物を遠くから捉えたロングショットや、空間の静けさに重きを置いた演出が、自然の美しさと不穏さを同時に引き立てているのです。
また、静寂の中に紛れ込む「音」や「沈黙」の効果的な使い方にも注目です。たとえば、冷蔵庫のモーター音や料理を作る音など、日常の生活音が際立って聞こえる瞬間があります。それらは通常、ほとんど意識されないような音ですが、この作品では妙に存在感を放ち、静かな空間にどこか異質な緊張感を生み出します。こうした音の演出は、単なる環境音以上の役割を果たし、不穏な空気を少しずつ観客に浸透させる効果を持っています。
愛と喪失が織りなす物語の核心
『アンデッド/愛しき者の不在』が描くのは、単なるホラーではありません。この作品の核となるのは、愛する人を失う痛みと、その人が「アンデッド」として蘇るという矛盾に満ちた状況です。愛と喪失が交錯する中、観客は主人公と共に「愛するとは何か」「喪失をどう受け入れるべきか」という問いに向き合います。その過程は、単なる恐怖を超えた、人間の深い感情と向き合う感動的なドラマとして描かれています。
実力派キャストと制作陣による完成度の高さ
主演を務めるのは、『わたしは最悪。』でカンヌ国際映画祭の主演女優賞を受賞したレナーテ・レインスヴェ。彼女の繊細で奥深い演技が、この物語に命を吹き込んでいます。また、本作の脚本は、北欧ホラーの傑作『モールス』(原題:Let the Right One In)の原作者が手掛けており、観る者を引き込む緻密で奥行きのあるストーリーが展開されます。
制作陣は、ノルウェー映画界の中でも特に注目される才能を結集。彼らが生み出す静かでありながら心を揺さぶる演出は、この映画を単なる「ゾンビ映画」の枠を超えた傑作へと押し上げています。
賛否両論の中に潜む普遍的なテーマ
『アンデッド/愛しき者の不在』は、その静かな語り口と深いテーマ性から、評価が分かれる作品であることも事実です。しかし、これは観客一人ひとりが異なる感情や視点を持ち帰ることができるという、この映画ならではの魅力でもあります。「愛するとはどういうことなのか」「失った存在とどう向き合うべきか」という普遍的なテーマが、多くの人の心に刺さる一方で、その曖昧さが観る者の解釈を試す作品となっています。
「静けさの中に息づく恐怖と感動」「映像詩のような時間を過ごす」といった声もあり、一度観ればその独特な余韻がしばらく心に残るはずです。
『アンデッド/愛しき者の不在』は、単なるジャンル映画としてではなく、人間の感情の深淵を見つめる作品として仕上がっています。怖いだけではなく、切ないだけでもない――その曖昧さこそが、この映画の最大の魅力であり、北欧映画の新しい潮流を象徴する作品です。
ぜひスクリーンでその答えを探してみてください。この作品が問いかけるテーマは、あなた自身の人生や価値観を映し出す鏡となるかもしれません。
『アンデッド/愛しき者の不在』は、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほか全国で絶賛公開中です。
『アンデッド/愛しき者の不在』予告編
キャスト・スタッフ
原作・共同脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
監督・共同脚本:テア・ヴィスタンダル
出演:レナーテ・レインスヴェ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ビヨーン・スンクェスト、ベンテ・ボシュン、バハール・パルス
英題:Handling the Undead/原題:Håndtering av udøde
邦題:アンデッド/愛しき者の不在
2024年/ノルウェー・スウェーデン・ギリシャ/カラー/シネスコ/DCP上映/ノルウェー語・スウェーデン語・フランス語・ペルシャ語/98min
コピーライト:© 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.
提供:東北新社 配給:東京テアトル
ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほか全国絶賛公開中!
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