映画『たちあがる女』 監督に聞いたアイスランドの魅力と製作秘話

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3月5日(土)から絶賛公開中のアイスランド映画『たちあがる女』。アイスランドの現在抱える問題を、ユーモアとサスペンス、そして人間ドラマを織り交ぜながら鮮やかに描き切った本作品は、僕の中で今年観た作品でもベスト3に入る出来栄え。今回、ベネディクト・エルリングソン監督にインタビュー取材する機会を得て、作品への想い、そしてアイスランドの女性像などお話を伺いました。

|作品のインスピレーションとアイスランドの直面する問題

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ー監督は、本作品で脚本も手がけられています。脚本のインスピレーションはどこから生まれたのでしょうか。

ここ10年のアイスランドにおける状況がそのままインスピレーションになっているんだ。ダムを建設することによって水没するエリアがたくさんある。それに対して賛成する人もいれば、反対する人もいる。つまり環境問題だ。自然豊かなアイスランドにおける環境問題は、僕たちにチャレンジを突きつけているようなものなんだ。環境問題はアイスランドだけの問題じゃない。世界共通の問題でもあるんだ。作品自体の構想は2014年頃から頭にあったよ。

ー女性を主役にした理由はなぜですか?

そこは、とても自然な流れだったんだ。まずアイスランドは女性の地位が他の国に比べてとても高いということ。そして環境問題で戦っている人々は女性が多い。例えば南米のホンジュラスでダム建設の反対運動を行って凶弾に倒れたベルタ・カセレスもそうだし、アイスランドで水力発電所を作るために犠牲になる滝を守ろうとした農民も女性だったんだ。

|アイスランドの男女平等は闘って勝ち取ってきたもの

ーアイスランドは昔から女性の地位が高いのでしょうか?

アイスランドにおける女性の地位は、長い間かけて勝ち取って来たものなんだ。1915年に女性の国政選挙での投票権が認められ(当時は40歳以上の女性に与えられ、5年後に年齢制限が外され男性と同等になる) 、その後も女性の様々な権利に関する戦いは続き、1980年には世界で初めての女性大統領が誕生し、現在のアイスランド首相は女性。女性たちが集結して、自分たちの権利を要求して勝ち取って来た戦いの歴史なんだ。これは現在も続く旅路なんだよ。

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ー戦いを挑むハットラの強い目がとても印象的でした。キャスティングが大変だったと聞きましたが。

そうだね、今回のハットラは、巨大な敵に立ち向かう強い女性という一面、そして母親になるという女性らしさの一面が必要だったんだ。どの女優がこのハットラにふさわしいか色々悩んでいたんだけど、答えはすぐ側にあったんだ。ハルドラ(ハットラ役)は、僕の小さい頃からの友人で、一緒に舞台に出たこともあるし、同じ演劇学校に通ったこともある。そして彼女はドンキホーテのセルバンテス役(男性)も演じたことがあった。適任者はすぐ側にいたんだ。アイスランドの諺で「湖にまで行って、やっと水が見つかった」というのがあるけど、本当にそんな感じだった。

|映画音楽の新しい手法

ー今回、斬新な手法として取り上げられている、映画音楽の演奏者がスクリーンに登場する手法ですが、どんな意図が監督としてあったのでしょうか

これは色んな意図があるんだよ。観客の笑いを取るというのもそうだし、この作品はファンタジーなんだよと知らせる手法でもある。君も気づいたかもしれないけど、演奏者がスクリーンに出てきても、ストーリー自体を邪魔はしないんだよ。オペラでもそうだけど、演奏者が前に出てくる世界観をやって見たかったんだ。

ーそれは確かにその通りでした。最初のインパクトは大きいですが、ストーリーを邪魔することは一切なく、中盤以降では彼らがいつ出てくるか楽しみにしている自分もいました。演奏者に加えて、ウクライナの歌を歌う女性合唱団も強い印象を残していますね

彼女たちの歌は、ハットラの心を鼓舞する歌なんだ。「母になれ」。そう強く語りかける歌なんだよ。作品の中で出てくる音楽、歌はハットラの内面を表すものでもある。だから、彼女が決意するとき、葛藤するときに彼らがスクリーンに出てくるんだ。

|アイスランドらしいコミュニティ情景描写

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ー作品の中で、ハットラと牧場主のおじさんが初めて会った時に、自分たちのおじいさんの話をして「僕たちは親戚かもしれない」というシーンがありましたが、こういったことはアイスランドでは日常なのでしょうか?

そうだね、アイスランドは紀元後800年とか900年にこの地に移り住んできて、多分今そこから見ると僕たちは、7世代から8世代降ってきている。アイスランドの人口が30万人強ということも合わせて考えても、こういったシーンは良くあることだよ。

実際僕も、ある田舎に行って、ある男性と知り合ったんだけど、それぞれの祖父の話になり、風貌などを話していたら、あまりにも似ていたんだ。僕らは従兄弟か又従兄弟かもしれないということに気付き「従兄弟よキスをしておくれ」と言って、お互いにハグをしてさらに仲良くなったんだ(笑)。

|アイスランドの魅力、そして日本

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ー作品中、もう一つ印象に残ったのが、ハットラが自然を抱きしめるように、地面にうつ伏せになるところでした。監督もアイスランドの自然をこよなく愛する1人だと思いますが、監督が感じるアイスランドの魅力はどんなところでしょうか?

やっぱり何と言っても、「人の手が入っていない手付かずの自然」に尽きると思う。これは他の国には無い大きな魅力だよね。ストーリーは勿論なんだけど、このアイスランドの野生の自然を、作品を通じて感じてもらえると凄く嬉しい。

ーアイスランドの荒々しい自然の魅力はとても感じました。

日本で観てくれる人たちにも、そこが伝わると嬉しいよ。あと、日本の映画監督、河瀬直美さんの作品を見て感じたのは、日本もとても美しい国だということ。島国、そして火山国というところでもアイスランドと日本は近しいと思っている。そんな日本でも僕の作品が上映されることに、心の底から大きな幸せを感じているよ。

|インタビューを終えて

『たちあがる女』は、見所が多い作品です。ストーリーでは、サスペンス、ヒューマンドラマ、コメディといった様々なカテゴリーの上質な部分を感じますし、音楽の手法も面白い、女性が強い(前に立っていく)アイスランドらしさも感じます。そして何より監督も言っていた「アイスランドの自然」が堪能できる映画でもあります。社会情勢を学びながら、作品としても楽しむことができる作品は本当に稀です。アイスランドが気になる方はもちろん、心に残る良い作品をご覧になりたい方には、まさにうってつけの作品です。

|ベネディクト・エルリングソン監督 プロフィール

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©Juan_Camillo_Estrada_Slot_Machine_2018

アイスランドの監督、作家、俳優。エルリングソンは舞台やテレビシリーズ、映画の役に加えて、舞台演出家としても知られている。彼の仕事は、アイスランドの劇場の歴史の中でも最も成功したといえるものも多くあり、6年間、エルリングソン自身による舞台パフォーマンスが行われた。監督・脚本の長編一作目である『馬々と人間たち』は20以上の国際的な映画祭で様々な賞を受賞しており、その中には2013年のサン・セバスティアン国際映画祭と2014年のノルディック映画祭の新人監督賞も含まれる。また、ベネディクト・エルリングソンは2016年のGAN基金映画賞の受賞者でもある。

作品を紹介した記事はこちら

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