全国で公開中の映画『リサ・ラーソンがいた時間』が、多くの観客の心をつかんでいます。
スウェーデンを代表する陶芸家、リサ・ラーソン。愛らしい動物たちの作品をはじめ、日本でも長く親しまれてきた彼女の姿を、約8年間にわたってカメラに収めたのが、孫であり映画監督のエミリア・エクマン・ラーソンさんです。
作品を生み出すアーティストとしてのリサだけではなく、家族と笑い、悩み、年齢を重ねてもなお創作への情熱を失わない、ひとりの人間としての姿を映し出す本作。
なぜエミリアさんは祖母にカメラを向け続けたのでしょうか。そして、8年間の撮影を通して見えてきたリサ・ラーソンとは、どんな人だったのでしょうか。
来日したエミリア監督に話を聞きました。
8年間の撮影で見えてきた、映画のかたち

――今回の映画は、リサさんのことをもっと知りたいというところから撮影が始まったそうですが、8年間の撮影の中で、どのように一本の映画になっていったのでしょうか?
「撮影している間、頭の中ではいろいろな映画を思い描いていました。最初は、自分自身は絶対に映画の中には入らないと思っていたんです。
陶芸家としてのリサや、彼女の作品について話す人たちを撮影していました。でも、それと家族のホームムービーを合わせてみると、どこか噛み合わない感じがありました。
その後、“なぜあなた自身が映画に出ていないの?”と言われたことがきっかけになって、自分自身を映画の中の“エミリアという登場人物”として考えるようになりました。
“リサの孫娘だったら何を知りたいだろう、どんな質問をするだろう”と考えるようになったんです。
自分もこの映画の中に入らなければいけないと理解した時に、ようやく映画の形が見えてきた気がします」。
カメラがあったからこそ、祖母と話せたこと

――撮影をしていく中で、カメラがあったからこそリサさんと話せたこともあったと思います。お二人にとって、カメラはどんな存在だったのでしょうか?
「私はすごく好奇心が強いんです。でも普通のディナーやフィーカの時にいろいろ聞きすぎると、“そんなことまで聞かないで”となってしまいますよね。
でもカメラがあると、それが一つの言い訳になるんです。普段だったら聞けないことも、カメラを通すことで聞くことができました。
リサはずっと仕事をしてきた人なので、座って自分自身のことをじっくり話す機会はあまりなかったと思います。私と話すことが、ある意味ではセラピーのような時間になっていたのかもしれません。
私が撮影を始めた時は22歳で、これから人生をどうしていくのか、キャリアはどうするのか、母親になってもクリエイティブな仕事を続けられるのか、いろいろ悩んでいました。
一方でリサは人生の後半に差しかかっていました。
だから本当に、お互いにとっていいタイミングだったと思います。撮影を続けていく中で、とても親密になって、年齢差もなくなっていったように感じました」。
孫だからこそ撮れた、リサの素顔

――この映画の中で、“自分だからこそ撮影できた”と感じているシーンはありますか?
「たくさんあります。
もし私が監督だったとしても、撮影しているのが別の人だったら、リサはきっと緊張していたと思います。
私が撮影していたから、彼女は私を信頼してくれていました。私なら必要以上に彼女をさらけ出すことはしないし、本当の姿を撮ってくれると感じていたんだと思います。
ただ、私が彼女に近い存在だからこそ、“今は監督としているべきなのか、孫としているべきなのか”という難しさもありました。
年齢を重ね、病気になっていく人を撮影することも難しいことです。
ここまでは見せてもいい、これは家族だけで見るもの、これはみんなに見せても大丈夫。そういうことは、自分のお腹で感じるような直感で決めていきました」
最後まで消えなかった「もっと作りたい」という思い

――映画の後半では、年齢を重ねたリサさんの姿も描かれています。8年間撮影する中で、創作に対するリサさんの姿をどのように見ていましたか?
「リサは、“もう年を取ったからいい”ではなくて、起きて仕事をしたいと思っている人でした。それほど粘土を愛していたんです。
彼女は全然満足していませんでした。“もうやりたいことは全部やったから、あとはいい”という感じではなくて、いつももっとやりたい、もっと作りたい、もっといいものを作りたいと思っていました。
私は長い間、いつかリサが“もう十分やりきった”と思う日が来るんじゃないかと思っていました。でも、そんな日は来ませんでした。
彼女を長年撮影したことで、私自身も、いつかすべてが完璧になって、自分の仕事に完全に満足できる場所にたどり着くということはないんだと思うようになりました。
だから今は、今この瞬間を生きて、創作のプロセスそのものを楽しむ方がいいと思っています」。
作品だけでは分からない、リサ・ラーソンの素顔

――日本ではリサさんの作品を知っている人がたくさんいます。この映画を通して、作品だけでは分からないリサさんのどんな一面を知ってもらえたら嬉しいですか?
「私たちが憧れるような人や、“成功した”と思われている人であっても、それぞれに悩みや葛藤を抱えているということを知るのは、とても大切だと思います。
成功したからといって、人生のすべてが完璧になるわけでも、自分に完全な自信を持てるようになるわけでもありません。
世の中では、人はそれぞれ違っていて、誰もが何らかの形で特別な存在になりたい、ということがよく語られます。でも、本当に大切なことに関しては、私たちはみんな同じなのだと思います。
私にとって本当に大切なのは、意味のある、愛に満ちた人とのつながりです。
この映画を観た方が、自分の夢を追いかけ、自分を幸せにしてくれるものを大切にしようと思ってくれたら嬉しいです。そして、自分の家族や友人、自分自身に対して、もっと本質的な問いを投げかけてみようと思ってもらえたらと思います。
自分自身についても、他者についても、まだまだ知ることのできることはたくさんあります」。

世界中で愛される作品を生み出した陶芸家、リサ・ラーソン。
映画『リサ・ラーソンがいた時間』に映し出されるのは、私たちがよく知る作品の向こう側にいた、笑い、悩み、家族を愛し、そして最後まで「もっと作りたい」と願い続けたひとりの女性の姿です。
そして、孫であるエミリアさんが8年間カメラを向け続けたからこそ残すことのできた、祖母と孫のかけがえのない時間も刻まれています。
リサ・ラーソンの作品を知っている人ほど、その作品を見る目が少し変わるかもしれません。映画館を出たあとには、身近にあるリサの作品に、もう一度会いたくなる。そんな作品です。
▶︎映画『リサ・ラーソンがいた時間』オフィシャルサイトはこちら
エミリア・エクマン・ラーソン プロフィール

1994年10月27日生まれ。リサ・ラーソンの孫。スウェーデン第三の都市マルメを拠点として、ドキュメンタリー映画を中心に活動するスウェーデンの映画監督・撮影監督。映画制作と 並行して、マルメ文化学校で障がいのある子どもたちとともに、アート、演劇、ダンス活動にも携わっている。
「学校でクラスのみんなが祖母のことを知っている一方で、私にとってはどこか謎めいた存在だった――」そんな思いを出発点に、2017年より8年間にわたって、リサの姿をカメラで記録。
『リサ・ラーソンがいた時間』キャスト・スタッフ

監督・撮影:エミリア・エクマン・ラーソン
出演:リサ・ラーソン、グンナル・ラーソン、マティアス・ラーソン、エミリア・エクマン・ラーソン、フランコ・ニコロシ
2025年/スウェーデン/スウェーデン語/94 分/カラー/1.85:1/5.1ch
英題:Memories In Clay:A Film About Lisa Larson
字幕:LiLiCo 後援:スウェーデン大使館 協力:株式会社トンカチ 配給:ミモザフィルムズ
シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開中
© 2025 Kamlert Film AB, Film i Skåne AB, Sveriges Television AB
『リサ・ラーソンがいた時間』予告編
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