2019年、わずか34歳でフィンランドの首相に就任し、当時世界最年少の現職首相として注目を集めたサンナ・マリンさん。
新型コロナウイルスのパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻、フィンランドのNATO加盟など、激動の時代に国を率いた彼女が来日し、自身の経験を綴った著書『行動こそ希望! 34歳、一国を率いる』出版イベントが開催されました。
会場では、首相として数々の危機にどう向き合ってきたのか、フィンランドが大切にするジェンダー平等、そして政治の世界を離れた理由まで、さまざまなテーマについて率直な思いを披露しました。
タイトル"行動こそ希望"に込められた想い

今回の著書『行動こそ希望! 34歳、一国を率いる』は、マリンさん自身が政治家として歩んできた道のりと、その中で経験したさまざまな出来事を綴った自伝です。
イベントの冒頭で話題となったのは、本のタイトルにもなっている「行動こそ希望」という言葉。
世界では今、地政学的な緊張や気候変動、経済の先行きへの不安など、さまざまな課題が山積しています。
そうした時代に、私たちはどのように希望を見いだせばよいのでしょうか。
「私にとって希望とは、空から突然降ってくるようなものではありません。自分自身でつくり出すものだと考えています」。
マリンさんはそう語り、たとえ不安定な時代であっても、一人ひとりが行動を起こし、変化を生み出していくことの大切さを強調しました。
「今、世界に広がっている絶望感については、私もよく理解できます。地政学的な緊張や気候変動、世界各地で続く紛争など、さまざまな問題があります」。
そのうえで、第二次世界大戦前のヨーロッパも、決して希望に満ちた時代ではなかったと振り返ります。
かつては実現が難しかった人権や女性の権利の向上も、人々が声を上げ、行動を積み重ねてきた結果です。
「今も確かに困難な時代ですが、私たちには世界を変えることができると信じています。過去にも変えてきたのですから、これからも変えることができるはずです」。
今の社会にも変えられることがある。その強い信念が、本のタイトルにも込められています。
34歳で首相に就任。危機の中で学んだリーダーシップ

2019年12月、34歳でフィンランドの首相に就任したマリンさん。
彼女が率いた連立政権は、5つの政党の党首が全員女性という点でも、世界的に大きな注目を集めました。
しかし、就任から間もなく新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大。その後もロシアによるウクライナ侵攻など、国家の未来を左右する危機に次々と直面します。
イベントでは、そうした経験から学んだリーダーシップについても語られました。
「危機が起きたとき、すべてを解決してくれる人がどこかにいるわけではありません。結局のところ、私たち自身で考え、行動し、乗り越えていかなければならないのです」。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初は、専門家でさえ十分な情報を持たず、確立された対応マニュアルもありませんでした。
「当時は専門家たちでさえ、どうすればよいのかわからない状況でした。マニュアルもなく、十分な情報もない中で、私たちは非常に大きな決断をしなければなりませんでした」。
首相として、社会活動の制限やイベントの中止など、それまで前例のなかった決断を次々と下していったマリンさん。
そして、もう一つ大切だったのが「謙虚であること」だったといいます。
「新しい情報が入ってくるたびに、それまで自分たちが下した決定を見直し、必要に応じて変更していくことが重要でした」。
自分の判断に固執せず、状況に応じて柔軟に対応する姿勢。それが、危機を乗り越えるうえで欠かせなかったと振り返りました。
フィンランドのジェンダー平等と、仕事も家庭も大切にできる社会

イベントでは、フィンランドのジェンダー平等についても話題が及びました。
男女平等の取り組みが進んでいることで知られるフィンランド。その社会から日本が学べることは何なのでしょうか。
マリンさんが挙げたのは、ワークライフバランスへの理解と、それを支える社会の仕組みでした。
「フィンランドがうまく取り組んできたことの一つは、ワークライフバランスへの理解を社会全体で深めてきたことです」。
フィンランドでは、質の高い教育や保育サービス、育児休業制度などが整備され、子どもを育てながら仕事を続けやすい環境が築かれています。
「人生には大切なことがたくさんあります。仕事もあれば、家族との時間もあり、子育てもあります。そうしたさまざまなことを、無理なく組み合わせていける社会であることが重要だと思っています」。
仕事を続け、キャリアを積み重ねることと、家族との時間を大切にすること。
そのどちらかを諦めるのではなく、両方を実現できる社会であることが重要だと語ります。
「特に女性にとっては、仕事を続け、経済的に自立することと、子どもを持ち、子育てをすること。その両方を実現できる社会の仕組みが非常に重要です」。
そして、その実現には、男女が家庭や社会での責任を分かち合うジェンダー平等が欠かせないと強調しました。
フィンランドの暮らしや働き方に関心を持つ人にとっても、改めて考えさせられるテーマです。
政界引退の背景にあった、母親としての思い

2023年に政界を離れたマリンさん。
質疑応答では、その決断に至った理由についても率直に語られました。
一つは、首相時代から続くメディアによる過剰な注目でした。
若くして首相となったマリンさんは、その政治活動だけでなく、友人との交流やプライベートな時間の過ごし方まで、たびたび報道の対象となりました。
「私は、それまでのフィンランドの首相とはまったく違うタイプの人物でした。新聞などでは、私に関することで売れる内容があれば、何でも一面トップに掲載するような状況だったのです」。
首相として取り組むべき重要な課題が数多くあるにもかかわらず、私生活に関する報道への対応に時間を費やさなければならなかったことには、強いもどかしさを感じていたと振り返ります。
「本来取り組まなければならない大切な仕事がたくさんあるのに、そうしたことに時間を割かなければならないのは、非常に不快な経験でした」
こうした経験については、著書の中でも一章を割いて詳しく綴られています。
そして、もう一つの理由として語られたのが、娘さんとの時間でした。
「私には現在8歳になる娘がいます。私が首相になったとき、娘はまだ2歳にもなっていませんでした」。
首相としての仕事は多忙を極め、娘さんの幼い頃の大切な時間を十分に一緒に過ごせなかったという思いがあったそうです。
「私は、朝、娘が目を覚ますときにそばにいてあげたい。夜、眠りにつくときにも、一緒にいてあげたい。そうした気持ちが、次第に大きくなっていきました」
そして、マリンさんは政治の世界を離れるという、大きな決断を下します。
「子ども時代の時間は、決して取り戻すことができません。大人であれば、後からまた一緒に時間を過ごすこともできますが、子どもの場合はそういうわけにはいかないのです」。
首相として国家を率いていた一方で、一人の母親として悩み、葛藤していたマリンさん。
先ほど語られたワークライフバランスの重要性が、彼女自身の人生とも深く結びついていることが伝わる場面でした。
今もなお、よりよい未来のために

現在、マリンさんは政治の第一線を離れ、民間セクターでも活動の幅を広げています。
特に関心を寄せているのが、AIをはじめとするテクノロジーの発展と、それに伴う倫理的なルールづくりです。
「今、テクノロジーは大きな変革期にあります。私が強い関心を持っているのは、こうした技術の発展に、どのように倫理的なルールや原則を組み込んでいくかということです」。
急速に進化する技術を社会にどう取り入れ、人々の暮らしに役立てていくのか。
そのためには、政治家や政府だけではなく、技術を開発する企業や専門家が協力し、新しい法制度やルールをつくっていく必要があると語りました。
「テクノロジーは人間に害を与えるものではなく、人間のためになるものでなければなりません」。
さらに、技術革新によって生まれる利益が一部の人々だけに集中するのではなく、社会全体に行き渡ることの重要性にも言及。
政治家としての立場は離れても、よりよい社会をつくるために行動し続ける姿勢は変わっていません。

2026年9月28日(月)に発売された『行動こそ希望! 34歳、一国を率いる』。
本書には、34歳で一国の首相となったマリンさんが、さまざまな困難に直面しながら、何を考え、どのように行動してきたのかが、自身の言葉で綴られています。
パンデミックやウクライナ侵攻、NATO加盟をめぐる決断だけでなく、女性リーダーとして向けられた視線、過熱するメディア報道、そして自分らしい生き方を模索する姿まで。
今回のイベントで語られたエピソードの数々も、本書ではさらに深く掘り下げられています。
世界的に注目された若きリーダーの姿だけではなく、一人の女性として、母親として、そして社会をよりよくしたいと願う一人の人間としての思いに触れられるのも、この本の魅力です。
「希望とは、空から突然降ってくるようなものではありません。自分自身でつくり出すものです」。
イベントの冒頭で語られたその言葉は、国家のリーダーだけに向けられたものではありません。
仕事や家庭、日々の暮らしの中で、何かを変えたいと感じている私たち一人ひとりにも通じるメッセージです。
激動の時代を駆け抜けたサンナ・マリンさんの経験と、未来に向けた思いが詰まった一冊。
彼女が歩んできた道のりを知ることで、これからの社会や自分自身の生き方について、新たな視点が見つかるかもしれません。
書籍概要

■書名:『行動こそ希望! 34歳、一国を率いる』
■著者:サンナ・マリン
■翻訳:久山葉子、服部久美子
■発売日:2026年9月28日(月)
■発行:ホーム社/発売:集英社
■定価:2,420円(税込)
■仕様:四六判・272ページ
■ISBN:978-4-8342-5421-1
コメント
トラックバックは利用できません。
コメント (0)







この記事へのコメントはありません。