日本と比較すると読書率も高く、図書館の利用頻度も高いと言われる北欧諸国。
その中でもバルト三国の一つ、ラトビアの図書館にフォーカスを当てて書かれたのが「ラトヴィアの図書館」(秀和システム刊)。
人口あたりで計算すると日本の15倍も図書館を保有しているラトビア。図書館を紹介しながらも、ラトビアの文化や歴史をも紐解いていく書籍です。
多様化する図書館のあり方
北欧は歴史を感じる物から、現代的な洗練された公共図書館が多数あります。そして近年では、そのあり方が少しずつ変化しています。
編集部でも以前紹介したフィンランドの公共図書館「OODI(オーディー)」は、3Dプリンターやミシンがあったり、Eスポーツを楽しむ部屋があったり、カフェがあったり、コミュニティとしての機能が充実していました。
図書館は、社会を映し出す鏡ともいう著者が、ラトビアの公共図書館、出版業界、図書館法を解説しながら、ラトビアの文化まで丁寧に解説がされていきます。
※ヘルシンキの公共図書館「オーディー」を紹介した記事はこちら
光の城と名付けられたラトビア新国立図書館
書籍の表紙にもなり、第4章をつかって紹介されているのが2014年8月にオープンした「ラトビア新国立図書館」。
ラトビアでは"図書館"は知識を照らす場所という意味を込めて「光の島」「光の点」などと呼ばれるそうで、この新国立図書館は設計の段階で「光の城」という愛称が付けられていました。
旧国立図書館から、新国立図書館へ蔵書や資料を引っ越しする際に、実に15,000人が列になって手渡しで移動させたというほど、設計から完成まで新国立図書館は多くの注目を浴びてきたそうです。
新国立図書館は、地上8階建てで、高さ68メートル、総床面積約4万平方メートルという巨大な建造物で、オープンから10年たった今でもラトビアが誇る名所として光り続けています。
そして、本章の最後には著者が実際に新国立図書館を訪れ、地下一階から最上階までを紹介する探訪記も収録されているので、しっかり新国立図書館の内部を知ることができます。
図書館を取り巻くシステム
この書籍の面白いところは、単純に図書館でできるサービスや、図書館の特徴を紹介するだけではないというところ。
特に5章ではラトビアの首都リガにある図書館の運営システムや予算にまで話が及びます。少し難しい話にも感じるかも知れませんが、図書館が国のどこの管轄なのかなどが分かってくると、提供するサービスが多岐にわたっているのが腑に落ちてきます。
その他にもさらにラトビア事情を深掘りするコラムにも注目です。
今回ご紹介した「ラトヴィアの図書館」は、ガイドブックとは毛色が大分違います。
使用されている写真も少なめで、先ほど紹介したように国の体制の話にも触れたりするのでやや固い印象を持たれる方もいらっしゃるかも知れません。
ただ、北欧各国には素晴らしい図書館が点在し、多くの人々に利用されていますし、新しい観光場所としても注目されています。
この本を読むことで、ラトビアの図書館の素晴らしさだけではなく、国民性や歴史も学ぶことができるはずです。
ラトビアに関心がある方に是非手に取っていただきたい書籍です。
著者:吉田右子(よしだ・ゆうこ)
筑波大学図書館情報メディア系教授。博士(教育学)専門は公共図書館論。
主な著作として、『メディアとしての図書館』(日本図書館協会、2004年)、『デンマークのにぎやかな公共図書館』(新評論、2010年)、『読書を支えるスウェーデンの公共図書館』(新評論、2012年)、『文化を育むノルウェーの図書館』(新評論、2013年)、『オランダ公共図書館の挑戦』(新評論、2018年)、『フィンランド公共図書館』(新評論、2019年)などがある。
『ラトヴィアの図書館』概要
■目次
第1章 図書をめぐるストーリー――言語・出版・図書館
第2章 ラトヴィアの公共図書館――二度の占領を乗り越える
第3章 ラトヴィア公共図書館のサービス
第4章 光の城・ラトヴィア新国立図書館
第5章 光の島・リーガ中央図書館
第6章 ラトヴィアと日本の図書館について語り合う
出版社:秀和システム
価格:2,860円(税込)
ページ数:304
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