アイスランドの雄大な自然を背景に、ひとつの家族の“その後”を静かに描いた映画『きれっぱしの愛』が7月3日(金)より公開されます。
派手な展開やわかりやすいストーリーはありません。
観る人によっては「何も起こらない」と感じるかもしれませんが、その静けさのなかに、確かに存在する“余韻”がこの作品の魅力です。
本作は、離れて暮らしているものの頻繁に訪れてくる元父と、芸術家として生きる母、そして子どもたちの日常を通して、「家族とは何か」「愛はどこに残るのか」を問いかける一作。
言葉にされない想いが、ゆっくりと観る側に委ねられていきます。
ストーリー

アイスランドの田舎町。
芸術家のアンナは、しっかり者の長女イダ、わんぱくでいたずら好きな双子グリムールとソルギス、そして愛犬パンダと暮らしながら、芸術家としての道を模索していた。
若くして結婚したものの、今や<もう夫婦ではなくなった>はずの元夫マグヌスは、いまだに情を断ち切れず、何かと理由をつけては家を訪ね、食卓を囲み、ピクニックにまで付き合う始末。
気がつけば、まるで<まだ家族>であるかのような日常を再び送るようになるがーー。
アイスランドの風景を存分に楽しめる

本作の大きな魅力のひとつが、アイスランドならではの自然美です。
広大な大地、どこまでも続く空、荒々しさと静けさが同居する風景。
それらがただ背景として存在するのではなく、登場人物たちの心情と重なり合いながら描かれています。
風の音や光の変化までもが、物語の一部として機能しているように感じられます。
特に印象的なのは、人の気配が少ない“余白”のある風景。
都市的な喧騒とは無縁のその空間は、登場人物たちの孤独や距離感をより際立たせます。
観光ではなかなか出会えない、日常に溶け込んだリアルなアイスランドの姿を体感できるのも、この作品ならでは。映像そのものを味わうだけでも価値のある一本といえるでしょう。
犬“パンダ”の存在に癒される

物語のなかで、静かな存在感を放っているのが犬の“パンダ”。
家族のそばに自然に寄り添い、場の空気をやわらげる存在として描かれています。
人と人との距離が少しぎこちなく感じられる場面でも、パンダの存在がその緊張をふっとほどいてくれるような瞬間があります。
その飾らない佇まいや表情は多くの観客の印象に残り、映画祭でも注目を集めたポイントのひとつ。
演出された“かわいさ”ではなく、あくまで自然体でそこにいることが、この作品のトーンとも見事に調和しています。
言葉を持たない存在だからこそ伝わる安心感やぬくもり。
パンダはこの物語において、家族をつなぐ“静かな媒介”のような役割を果たしているのかもしれません。
何も起こらない中にある、家族の心の機微

この映画では、大きな事件や劇的な展開は描かれません。
しかし、その“何も起こらなさ”こそが、本作の核となる魅力です。
日常の中にあるわずかな変化や、言葉にされない感情の揺れを丁寧にすくい取ることで、家族の関係性が静かに浮かび上がってきます。
例えば、会話の間に生まれる沈黙や、ふとした視線の交わり。
その一瞬に込められた感情は、明確に説明されることはありませんが、観る側の解釈にゆだねられることで、よりリアルに感じられます。
観終わったあとに残るのは、はっきりとした答えではなく、どこか引っかかる感覚や余韻。
その曖昧さこそが、家族という存在の複雑さや、言葉では捉えきれない感情を表現しているともいえるでしょう。
忙しい日常のなかで見過ごしてしまいがちな“小さな感情”に、そっと目を向けさせてくれる作品です。
『きれっぱしの愛』は、観る人によって感じ方が大きく変わる作品です。
物語を追うというよりも、そこに流れる空気や時間に身を委ねるような一本。
映像や沈黙の中に、自分なりの感情を見つけていく体験が待っています。
アイスランドの風景とともに、静かに心に残る“何か”を探したい人にこそ手に取ってほしい作品。
静かな時間の中にこそ宿る価値を、あらためて感じさせてくれます。
『きれっぱしの愛』予告編
キャスト・スタッフ

脚本・監督:フリーヌル・パルマソン 『ゴッドランド/GODLAND』
出演: サーガ・ガルザルスドッティル、スベリル・グドナソン
配給:NOROSHI、ギャガ/原題:Ástin sem eftir er(英題:The Love That Remains)/2025 年/アイスランド、デンマ
ーク、スウェーデン、フランス/カラー/ビスタ/5.1ch/109 分/字幕翻訳:松岡葉子/G
©STILL VIVID, SNOWGLOBE, HOBAB, MANEKI FILMS, FILM I VÄST, ARTE FRANCE CINEMA
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