湊かなえ×トーヴェ・アルステルダール対談|明治大学で語られた「なぜミステリーを書くのか?」

2025年9月1日、明治大学駿河台キャンパスにて、文学トークイベント「なぜミステリーを書くのか?」が開催されました。

登壇したのは、日本を代表するミステリー作家・湊かなえさんと、スウェーデンを代表する作家で、日本語にも翻訳出版されているトーヴェ・アルステルダールさん。

両国を代表する人気作家による貴重な対談に、多くの聴衆が集まりました。



日本・スウェーデンを代表する2人が作家になるまで

LifTe北欧の暮らし スウェーデン大使館主催で明治大学のリバティータワーで開催された文学のトークイベント「なぜミステリーを書くのか?」で登壇した日本のミステリー作家湊かなえ

逆境から始まった湊かなえさん

湊さんはもともと脚本を書き、賞も受けていましたが、当時暮らしていた地方では「脚本家になるのは難しい」と言われたそうです。

「地方に住んでいてできない仕事がある」という現実に悔しさを覚え、「ならば自分の力で書ける小説で挑戦しよう」と決意したのが作家人生の出発点でした。

また、脚本のセリフは、読み手(演出家、役者、視聴者)が理解しやすく、ストーリー展開のテンポを保つために「原則として三行以内に収めるべき」であるとされていますが、湊さんは逆に“一人の人物が延々と独白する小説”を書こうと挑戦。

そこから生まれたのが、デビュー作となった『告白』です。

逆境を糧に生まれた作品は、従来の枠を打ち破る斬新な語り口で多くの読者を魅了し、湊さんを一躍ベストセラー作家へと押し上げました。

LifTe北欧の暮らし スウェーデン大使館主催で明治大学のリバティータワーで開催された文学のトークイベント「なぜミステリーを書くのか?」で登壇したスウェーデンのミステリー作家トーヴェ・アルステルダール

ジャーナリスト出身のトーヴェ・アルステルダールさん

一方、アルステルダールさんは長年ニュースジャーナリストとして活動しながら、劇作家としても地元の劇場に戯曲を提供してきました。

その後、国際協力の現場で働いた経験や教師としての生活を経て、47歳のときに小説家デビュー。

デビュー作『彼女たちの漂流(原題:Women on the Beach)』では、人身取引や現代の奴隷制といった重い社会問題を題材にしつつ、個々の人間の感情に光を当てることで大きな注目を集めました。

なぜミステリーを書くのか

LifTe北欧の暮らし スウェーデン大使館主催で明治大学のリバティータワーで開催された文学のトークイベント「なぜミステリーを書くのか?」で登壇した日本のミステリー作家湊かなえとスウェーデンのミステリー作家トーヴェ・アルステルダール

境界線を描く湊かなえさん

湊さんは「人は被害者になる想像はよくするけれど、加害者になる想像をすることは少ない。しかし、加害者の立場を想像することで、人を傷つけずにすむのではないか」と語り、ミステリーを書く理由を明かしました。

作品の根底にあるのは「境界線」の存在です。人が踏みとどまるべき一線を越えてしまったら、どんな結末が待ち受けるのか――その想像を読者に促すことこそが、ミステリーの醍醐味だと強調しました。

さらに執筆のプロセスを「山登り」に例え、物語のゴールを山頂とし、そこに到達するまでに複数の険しいルートを用意する構成を取っていると説明。読者に“どの掛け違いが悲劇を生んだのか”を考えさせることを大切にしていると語りました。

LifTe北欧の暮らし スウェーデン大使館主催で明治大学のリバティータワーで開催された文学のトークイベント「なぜミステリーを書くのか?」で登壇した日本のミステリー作家湊かなえとスウェーデンのミステリー作家トーヴェ・アルステルダール

人間の弱さを見つめるトーヴェ・アルステルダールさん

アルステルダールさんは、ジャーナリストとして日々ニュースを追いながらも「ニュースではすぐに忘れられてしまう出来事を、物語にすることで人間の顔を持った出来事として残したい」と語りました。

彼女の作品には、国境を越えて共鳴するテーマが込められています。

犯罪を描くときも、被害者だけでなく加害者の立場にも目を向け、「人は憎しみよりも愛や守りたい気持ちから過ちを犯すことが多い」と指摘。

弱さや矛盾を描くことで、読者は“もし自分だったらどうするだろう”と考えざるを得ない、と強調しました。

さらに「遠い国の出来事が読者自身の物語に変わるのが文学の力」だとし、人間の普遍的な感情を描くことで国や文化の違いを越えて作品が響くのだとまとめました。

ミステリーがつなぐ日本とスウェーデン

LifTe北欧の暮らし スウェーデン大使館主催で明治大学のリバティータワーで開催された文学のトークイベント「なぜミステリーを書くのか?」で登壇した日本のミステリー作家湊かなえとスウェーデンのミステリー作家トーヴェ・アルステルダール
イベントの終盤、湊さんは「日本のミステリーは多様なジャンルとともに、人の心の奥深くを描く作品が多い。だからこそ、スウェーデンの読者にも“これは私の物語だ”と感じてもらえるはず」と語りました。

これに対しアルステルダールさんも強くうなずき、「ミステリーは社会を映し出すと同時に、人間の普遍的な感情を描く文学。だから国境を越えて響き合えるのだ」と応じました。

LifTe北欧の暮らし スウェーデン大使館主催で明治大学のリバティータワーで開催された文学のトークイベント「なぜミステリーを書くのか?」で登壇した日本のミステリー作家湊かなえとスウェーデンのミステリー作家トーヴェ・アルステルダール
国や文化が異なっても、ミステリー小説を通じて互いを理解し、交流し、ひいては平和へとつながる可能性がある——。

2人の熱いメッセージで幕を閉じた対談は、多くの聴衆に深い余韻を残しました。




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